近江湖東産地で、麻織物文化を守る「林与」さんの話

投稿日:2015/ 04/ 01  作成者:Textile-Tree 編集長 成田典子

林与(はやしよ)」さんは、滋賀県近江の麻織物メーカーで
近江上布(おうみじょうふ)の織元として
明治30年に創業しました。
現在、四代目が林与志雄社長です。
小さい工場ではありますが、シャトル織機を中心に
量産ではなかなかできない
質の高い丁寧なものづくりを行い
最近は海外からの需要も増えています。

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・・・シャトル織機の前に立つ林社長・・・

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・・・かつて生産されていた近江上布・・・

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・・・倉庫に眠っていた林与の近江上布のアーカイブ。
50年以上前に織られていた近江上布の見本が
数千枚から1万枚ほど確認されました・・・

林社長はとても志が高く、ものづくりの姿勢は
自らが綴る「リネン日記」からも伺えます。
1日1000件以上のアクセスがあるという人気ブログで
(4〜5年前の話ですから今はもっとあると思います)
テキスタイルやファッション業界に関わる方をはじめ
多くの方に読んでいただきたいブログです。

なかなか生産が難しい麻の高密度のキッチンリネン、
麻のデニム、先染めリネンをはじめ、
今では生産されていないアイリッシュリネン糸を織る
プロジェクトに挑戦したり、
自社のアーカイブの近江上布柄をプリント柄として
復刻させるなど、ちょっとずつ夢を叶えてきました。

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・・・林与にストックされていたアイリッシュリネン糸・・・

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・・・アイリッシュリネンハンカチプロジェクトで
製作されたハンカチ・・・

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・・・野州市の「紺九(こんく)」とコラボした
ヴィンテージ・アイリッシュリネンを本藍染めにした生地・・・

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・・・『インターテキスタイル上海2014』テキスタイルアワードで、
総合の3位を受賞したトロフィと賞状・・・

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・・・受賞したリネンのブラックデニム(左)・・・

しかし林社長が、最も危惧しているのが
かつては麻織物産地として名を馳せていた
近江湖東産地の衰退です。
後継者不足などもあり、年々廃業が続き
今では数えるほどしか織物工場が残っていません。
そのうち2つが今年廃業予定です。
廃業する工場が使用していた織機は
スクラップされ鉄くずとなってしまいます。

シャトル織機はもう生産されていない織機です。
しかも今回廃業される工場には「絽紋(ろもん)」という
ジャカードの「絽」を織る、とても希少な織機があります。
近江湖東産地の麻織物がなくなるということは
これまで職人さんが築き上げてきた
「日本の麻織物文化」がなくなることなのです。

林社長は、湖東地区の本場の麻織物の伝統を
なんとか残したい。
家族経営の中で大事に守られてきた方たちの思いを
なんとか自分が引き継ぎたい。
そのためには、まずはこの織機を守りたいと、
このたびクラウドファンディングの「REDYFOR」で
「近江湖東産地で、衰退しつつある
本場の麻織り文化を守りたい!」
というプロジェクトを立ち上げ、
支援を募ることになりました。

https://readyfor.jp/projects/ASAORIHOZON

これは、廃業する工場の織機を10数台移設し
稼働させるための資金集めのプロジェクトです。
期限は4月5日(日)で、目標金額は100万円です。
4月5日(日)23:00時点で100万円以上集まった場合のみ
決済が完了されます。

はじめは、告知不足でなかなか集まらなかった支援金も
皆様が知るとともに支援金が増え、
4月1日(水)現在で、110万円を超えました!
応援している一人として、本当に嬉しい限りです。

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・・・「プレミアム・テキスタイル・ジャパン2014」で、
ミラノ・ウニカのシルビオ・アルビーニ会長(中)と林与の林社長(右)・・・

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・・・ストールとワンピース生地の2種類を提案・・・

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・・・林与の近江上布柄をインクジェットプリントで
復刻させたもの。手前の小さな布が元の近江上布。
奥がプリントのストール。見た目はほとんど変わりません・・・

林社長は、現在ほとんど一人で国内外を動き回り
大変ハードな毎日を送られていますが、
「まだ40代という若い年代だからできる。
今をやらないと、多分できなくなると思う。
このタイミングを逃してはだめだ」と
頑張っておられます。
移設する織機を設置する建物や土地の購入資金とは
自力で捻出しようとしています。

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・・・近江湖東地区。水が上がってくることもあるので
土台を高くした上に建物が建てられています・・・

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・・・林与の工場内・・・

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・・・林社長とスタッフのインさん・・・

プロジェクトの締め切りまであと数日ではありますが
近江湖東地域の麻織物産地としての現状を
多くの方にまず知っていただきたい。
そして「Made in Japan」のものづくりが
過去の遺産にならないように、
産地で志を持って頑張っている方を
ぜひ応援して、次の世代へとつないでいきたいと
心より願っています。
これは近江湖東地区だけではなく、
日本の織物産地の多くに見られている現状ですから。

三菱レイヨン・テキスタイル「あいだのチカラ」2015 Spring & Summer

投稿日:2014/ 06/ 17  作成者:Textile-Tree 編集長 成田典子

三菱レイヨン・テキスタイル(株)は
アセテート繊維とポリエステル繊維を販売している会社です。
中でもトリアセテートは世界で唯一三菱レイヨンのみが
生産している繊維。
毎年2回「あいだのチカラ」をテーマに
トリアセテート繊維「ソアロン」を主力にした
展示会が開催されます。
2015年春夏は「光」「軽」「張」が切り口。
「上質感、軽快さ、フォルム」をポイントに、
今シーズンの傾向に焦点を絞った提案です。
(2014年6月4日・5日開催)

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トリアセテートは、天然パルプから生まれた
セルロース系繊維で、天然繊維のナチュラル感・美しさと
合成繊維の機能性・快適感の
両方の性質を併せもつ半合成繊維。
「光沢感」「吸水性」「ソフト感」「接触冷感」
「ウォッシャブル性」「速乾性」「クーリング性」
「熱セット性(プリーツ)」という優れた特性があり
「あいだの力」は、そういうコンセプトが
練り込まれたテーマです。

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トリアセテートを主力にした展示会は
目立つようなトレンド訴求が難しいものがありますが
それでも毎回トレンドカラーとスタイリングをポイントに
興味を引く切り口で新鮮さを出しています。
今回はトレンドカラーのイエローや
パステルカラーが提案されています。
エントランスにはイラストレーターの
鄭貞子さんのイラストで「光」「軽」「張」を表現。
鄭さんは、同じ日に顧客を対象に開催される
「ファッショントレンドセミナー」の
トレンドストーリーのイラストも描いています。

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「光」・・ソアロンの特徴である美しい光沢は、
糸そのものの輝きです。
トリアセテート繊維には表面にランダムな溝があり、
これが光を拡散し柔らかな光沢を生み出すことや、
光の屈折率が低いため繊維方向からの
反射光が少ないという性質があり、
より絹のような光沢と発色性を生み出しています。
写真は定番の『Soaron』。

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「軽」・・透け感や軽さが求められていますが、
今シーズンは“膨らみ”のあるシルエットが重要になっており、
薄手素材にもハリ感が不可欠。
ネオ・オーガンジー素材の『CAROSキャロス』などが提案。

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「張」・・・今シーズンの素材に不可欠なのがハリ感。
弾力性(ハリ)を作るストレッチファイバーと
トリアセテートのドライタッチ併せもつ複合素材の
『HARIDORAハリドラ』の提案。

【トリアセテートSoalonによる織物】

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「Uneven」表情感:
多重織りで凹凸を出した表情感のある
素材のバリエーション。

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「Natural」ナチュラル感:
シワになりにくい、洗濯がきくなどの利便性や、
綿麻のような膨らみ感を持つ、
ナチュラルな表情のフィラメント素材。

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「Soalon plus」:複合素材
トリアセテートの艶に天然繊維(麻のストレッチ素材)の
膨らみを出したものなど
「トリアセテート+天然繊維」の提案。

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「Glossy」光沢感:
控えめな艶、スパンシルク調、膨らみ感など
ブラウスのための定番素材のバリエーション。

【ポリエステルやポリエステル複合による織物】

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「Light Weight」:軽量素材
エアリー感のある繊細なライトウエイト素材。
ガーゼ調、スラブタッチ、ソフトオーガンジ調など。

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「Glossy」光沢:
シルキー素材にストレッチや
ハリのある肉厚感を加えたもの、
糸の膨らみでふんわり感を出したものなど。

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「Volume」ボリューム感:
糸の膨らみでもちもちのボリュームを出した
構築的なシルエットを作る素材。

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「Function」機能性:
特殊構造のアセテートとポリエステルの
複合素材。吸湿性に富み、
べたつきやムレを抑え、水分が素早く蒸発し、
気化熱の作用でひんやりした触感を生み出す。

【トリアセテートSoalonによる編物】

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「JERSEY/Uneven 」表情感:
ピンタックやシボのような凹凸感を出したもの。

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「JERSEY/Soft  Drape」ドレープジャージー:
ソフトでドレープ性のある上質ジャージー。
糸に膨らみや繊細な表情をつけることで
ナチュラル感を醸し出したもの。

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「JERSEY/Compact)」ナチュラルコンパクト:
ペーパーライクなナチュラルな表情なもの、
布帛と見間違えるようなストレッチ性のある
布帛調ジャージーなど。

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「Knitting」よこ編み:
艶と軽量感のあるトリアセテートと他素材複合のよこ編みヤーン。
様々な素材を芯にトリアセテートを撚糸することで
ナチュラルな膨らみと上質感のある表情を出したもの。

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遮熱繊維『Solshieldソルシールド』
太陽の光や熱(紫外線や赤外線など)を通しにくく、
衣服内の温度上昇を約2℃以上抑える効果が期待できるという、
ポリエステルの機能素材。
地球温暖化にともなう晩夏や初秋素材としても提案されている。

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左は遮熱繊維の『Solshield』
右は一般的なポリエステル繊維

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左の遮熱繊維が光が通りにくくなっており
やや暗くなっているのが分かる。

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2008年より開催されている
三菱レイヨン・テキスタイル(株)と文化学園による
「Soalon・DESIGN CONTEST」。
今年1月にファッションショー形式の最終審査会を開催し
優秀作品3点が選ばれています。

『北越雪譜』と御機屋(おはたや)の話

投稿日:2014/ 04/ 11  作成者:Textile-Tree 編集長 成田典子

『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』という本があります。
江戸時代に南魚沼市塩沢で
「越後縮(えちごちぢみ)」の仲買商や質屋などをし、
随筆家でもある鈴木牧之(すずきぼくし)によって
書かれたものです。
江戸に商いに来ている時、雪を珍しがる人たちを見て
雪国の話しを書いたらベストセラーになりました。

その中の越後縮を書いた項目に、
とても興味深い話があるので紹介します。
※越後縮の話は「『北越雪譜』と越後上布の話」
参照してください。
当時、縮(ちぢみ)一反(いったん)織れば、
南魚沼の米農家の年収の半分になったといいます。
(といっても一反を糸から織り上げるまでは
4〜5カ月はかかると思います)

挿絵 04
・・・・冬は雪に閉ざされてしまう豪雪地帯。猛吹雪や雪崩で
亡くなった可哀想な話もあります。『北越雪譜』挿絵・・・・

・・・
「縮を織る処のものは娶(よめ)をえらぶにも
縮の伎(わざ)を第一とし,容儀は次とす。
このゆえに親たるものは娘の幼きより
此(この)伎を手習(てならわ)するを第一とす。
・・・

『北越雪譜』では、
嫁を選ぶには織り技術が一番で容貌は二の次。
親は娘が生まれたら、幼いときから織り技術を
教えることを一番重視しなさいと書かれています。
このようなことは、日本の織物産地はもとより、
織物や手芸文化の発達した世界各地にもありました。

村では当然のように「どこそこの娘は織物が上手」と
評判が立つので、娘たちは自分もその中に入りたいと
切磋琢磨し技術の向上に励みます。
織物上手な娘は良縁を斡旋してもらえるので
わずかな報酬でも「名誉」のために、
大変な努力を重ねるのです。

計り知れない手間と時間をかけて織り上げる「縮」は、
人を雇って合理的に織らせる織物工場では
とても採算がとれません。
手間に対して賃金を払うような賃仕事では不可能です。
雪に閉ざされた豪雪地帯の農家の婦女が
“唯一できる冬場の副業”だからこそできることなのです。
これは近江上布などにも見られた事です。

小千谷縮
・・・・伝統工芸品に指定されている小千谷縮・・・・

そのなかに「機織りで気がふれた娘」のことを
書いた項目があります。
この娘は、初めて上等の「縮」の注文が入ったので
大変喜び、金銭は二の次にして、
糸作りから自分で始め、誰の手も借りずに
こつこつと丹誠込めて見事な「縮」を織り上げました。
最後に「雪晒し(ゆきさらし)」という
仕上げを行うために、晒し業者に出したところ
なんと、戻ってきた反物には煤(すす)のような染みが
1箇所付いていたのです。
あまりのショックに娘は気がふれてしまったという
哀れな話が挿絵とともに載せられています。

挿絵02
・・・・機織りで気がふれた娘の挿絵(左)。『北越雪譜』より・・・・

見事な「縮」を織り上げる事は、
金銭以上の名誉である事が「御機屋(おはたや)」という
話を読むとよくわかります。
御機屋とは、特別な時に着るような上等な「縮」を織るための
神聖な織り場の事をいいます。
織る時には家のまわりの雪かきを丁寧にして、
家の中でできるだけ煙の入らない明るい部屋を選び、
新しいムシロを敷いて、四方にしめ縄を渡し、
中央に機(はた)を置きます。
まるで神様がいるかのごとく畏(おそ)れ敬い、
織り手の他は中に入れません。
織り手は、家族とは別の火で調理したものを食べ、
機を織るときは、衣服を改め、
塩水で身を清める塩垢離(しおごり)を行い、
手を洗い、口をすすぎます。
毎日このように身を清めてから始めるといいます。

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・・・・鳥居の形をした日本の手機(てばた)・・・・

以前古い機屋(はたや)さんを取材した時に、
日本の手機のたて枠は「鳥居」の形をしているのを
教えていただきました。
御機屋のことを知って、なるほどと合点がいきました。
「機には神が宿る」からでしょう。
『北越雪譜』には
「神は敬うことによって霊威を増すものだ」とあります。
ちょっとしたものでも、お守りとして敬い信じれば
霊は存在し、不思議な力を発揮するものだとし、
「御機屋の霊威」の例が挙げられていました。

御機屋は優れた織り手でなくては
建てる事ができません。
御機屋を建てる事は娘たちの憧れであり
それはまるで、身分の低いものが
殿上人(てんじょうびと)を
羨むようなことに等しいのだといいます。
機を織るということがいかに神聖な作業であり、
神の域に近づこうとするかのような
お金には代え難いもの作りのプライドがあったからこそ
日本には素晴しい織物文化が生まれたのだと
改めて実感しました。


「越後上布」は
『テキスタイル用語辞典』のコラムでも紹介しています(027P)。
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『北越雪譜』と越後上布の話

投稿日:2014/ 04/ 04  作成者:Textile-Tree 編集長 成田典子

NHKの「小さな旅」
「雪の機(はた)~新潟県南魚沼市~」(3月9日放映)で
江戸時代ベストセラーとなった
『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』と共に
豪雪の新潟県南魚沼市で織られる
「越後上布(えちごじょうふ)」を紹介していました。

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・・・・雪かきの様子や雪中歩行の用具の挿絵。『北越雪譜』より・・・・

『北越雪譜』は江戸時代に南魚沼市塩沢で
「縮(ちぢみ)」の仲買商や質屋などをし、
随筆家でもある鈴木牧之(すずきぼくし)によって
書かれたものです。
江戸に商いに来ている時、雪を珍しがる人たちを見て
雪国の話しを書いたら大当たりしました。
特に魚沼の名産品である
「越後縮(えちごちぢみ)」の事を書いた項目が
充実しているようなので、
興味を惹かれ早速購入してみました。
挿絵や現代語訳などもあるので
(ネットで検索もできます)かなり面白く読めました。
そこには日本の織物の原点があるような気がしました。

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・・・・越後上布。NHK「小さな旅」の映像より・・・・

「上布」とは、夏の麻着物地の最高級品とされる麻織物で、
苧麻(ちょま/からむし)を原料にしたものです。
越後地方(主に小千谷市、十日町市、塩沢町)で
生産するものは特に「越後上布」と呼ばれます。
かつては「越後布(えちごぬの)」と呼ばれていたようですが、
昔の地元では単に「布」と呼ばれていた事を
『北越雪譜』を読んで知りました。
だんだん評判が上がるにつれ「越後布」「越後上布」と
名前が付けられブランド化していったのでしょう。

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・・・・越後上布と、原料の青苧(あおそ)・・・・

「越後上布」の中でも糸に強い撚りを掛けて(強撚糸)
「縮み」を出した織物を「越後縮」といいますが、
総称して単に「縮(ちぢみ)」とも呼ばれています。
現在は、小千谷(おぢや)地区で織られる
「小千谷縮(おぢやちぢみ)」がよく知られています。
越後上布は、苧麻の繊維
(これを青苧《あおそ》といいます)を糸にしてから
織り上がるまでの工程は大変な手間と時間がかかります。
現在も昔ながらの手法で作られているものは、
国の重要無形文化財の認定を受けています。

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・・・・小千谷縮/2014年2月「GIFT SHOW」にて・・・・

越後上布は、苧麻の皮を剥いだ粗繊維(青苧)を
「苧績み(おうみ)」という
さらに裂いて縒(よ)って糸にしていく作業をし、
その後いくつかの工程を経て織り上げます。
織り上げた布は洗い上げ、
雪の上に布を並べて太陽に晒(さらす)す
「雪晒し(ゆきさらし)」という作業が行われます。
オゾンの酸化作用で白はより白くなり、
色物は色が冴えてきます。
これは、越後上布独特の晒しの手法です。

苧績みから始めて、織り上げ、雪晒しの作業までは
すべて雪の季節に行われます。
苧麻を原料に、とても細い糸にして織り上げる越後上布は
天然の湿り気がなければ切れやすいため、
まさに豪雪地帯が生産地として適しているのです。
織り手は湿度を保つために
暖房のない凍てつくような部屋で
辛抱強く織り上げていくのです。

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・・・・雪晒しの風景の挿絵。『北越雪譜』より・・・・

『北越雪譜』の有名な一説があります。

「雪中に糸となし、雪中に織り、
雪水に洒(そそ)ぎ、雪上に曬(さら)す。
雪ありて縮(ちぢみ)あり、
されば越後縮は雪と人と気力相半(あいなかば)して
名産の名あり。
魚沼郡(こおり)の雪は縮の親といふべし。」

(越後縮は)雪中に糸をつくり、雪中に織り
雪水で洗い清め、雪上で日に晒す。
雪があってこそ縮がある。
越後縮は雪と人と気力が補いあって
はじめて名産品といえる。
魚沼郡の雪は縮の親というべきものである。

雪国の人は雪に閉ざされた極寒生活に耐え忍ぶ
心棒強さがあります。
中でも越後人は粘り強さと丁寧さががあるといわれます。
そういうすべての条件が揃ってこそ、
この「越後上布/越後縮」が生まれたといえましょう。

次回は「御機屋(おはたや)」についてお話します。


「越後上布」は
『テキスタイル用語辞典』のコラムでも紹介しています(027P)。
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「アイリッシュ・クロッシェ・レース」とタイタニック号の話

投稿日:2014/ 03/ 10  作成者:編集部Kazumi

カギ針編みのレースを「クロッシェ・レース」といいますが
「アイリッシュ・クロッシェ・レース」というものがあるのを
ご存知でしょうか。
アイルランドで作られていたクロッシェ・レースで
アイルランドの国花であるシャムロック(クローバー)や
アザミ、バラ、葡萄など
宗教的にも意味をもつ柄を編み込んだもの。
柄が盛り上がって立体的になっているのが特徴で
とても手の込んだレースです。
実はこのレース、1912年に遭難したタイタニック号と
意外な共通性があるのです。


・・・・・『テキスタイル用語辞典』より・・・・・

映画『タイタニック』を見た方なら
レオナルド・ディカプリオ演じる主人公ジャックが3等客室で
仲間と一緒に伝統的なアイリッシュ・ダンスに興じている
パーティーシーンが強烈に目に焼き付いているはず。
アイリッシュ音楽ブームにも拍車をかけました。
音楽とダンス好きの3等客室の彼らは、「ジャガイモ飢饉」で
アメリカに渡ろうとしている「アイルランド系移民」なのです。

1846年、アイルランドはジャガイモの疫病が大発生し
壊滅的な被害を受けました。
当時アイルランドはイギリスの植民地下にあり、
アイルランド人の3分の2は農業に従事。
典型的な植民地型農業で、
ジャガイモを主食としていた小作農達は飢えに苦しみ
100万人以上といわれる餓死者を出しました。
アイルランドでは新天地を求め、
ゴールドラッシュに湧いていたアメリカやカナダなどに
移民となって人口が流出。
その数は200万人以上ともいわれています。
ケネディ大統領の先祖もジャガイモ飢饉時の
アイルランド移民だったのは有名な話です。

このジャガイモ飢饉による大ピンチを救ったのが
なんと「アイリッシュ・クロッシェ・レース」だったのです。
ジャガイモが作れなくなった農民達が目を付けたのが
ずっと作り続けてきたクロッシェ・レースを輸出することです。

アイルランド以外ではほとんど知られていなかったレースですが
ニードル・レースにも似ているゴージャス感のあるレースは
たちまち人気を得、世界中に知られることになり、
多くの外貨を稼ぎ、この危機を救ったといわれています。

素材に興味のわいた方は『テキスタイル用語辞典』も
ぜひご覧ください。
読み物としても面白い解説が好評です。

http://www.textile-tree.com/cube/html/ 

 

文:編集部Kazumi

 

「アイリッシュ」と名の付いた素材のこと

投稿日:2014/ 02/ 03  作成者:編集部Kazumi

素材には「アイリッシュ・ポプリン」「アイリッシュ・リネン」
「アイリッシュ・クロッシェ・レース」「アイリッシュ・ツイード」
「アイリッシュ・キャンブリック」など
「アイリッシュ」と名の付いた素材も多く見られます。

「アイルランド」は古くからケルト人の住み着いた
宗教観や精神性の高い土地であり、
ヴァイキングの侵入、イギリスによる植民地化、
南北アイルランドの分割など、侵略や支配を受けながらも
圧政に抗し続けた国でもあります。

16世紀のイギリス支配下では、
ケルト人の話すゲール語や踊ることを禁止されました。
アイリッシュ・ダンスは、
上半身を動かさず足だけで踊るステップダンスですが
窓を通して外から見た時に、
踊っていることを悟られないように考えられた
ダンスだといいます。

2009年の山田太一監督のドラマ『ありふれた軌跡』で
主演の加瀬亮さんが、このアイリッシュ・ダンスを
踊っているシーンがありました。
まさに「どうにもならない抑圧に負けない静かな抵抗」
という象徴的な演出です。
ちなみにドラマの主題歌はアイルランドの歌姫エンヤでした。


・・・・『テキスタイル用語辞典』より・・・・・

また、アイルランドには宗教弾圧で亡命してきた
ユグノー(カルヴァン派の人々)も多く移り住みました。
もの作りの技術能力が高いユグノーを
イギリスが積極的な保護したという背景もあります。
熟練工のユグノーは毛織物、絹織物、リネンなどの
優れた技術をイギリスやアイルランドにもたらし、
前述した「アイリッシュ・ポプリン」「アイリッシュ・リネン」などを
生み出すこととなりました。
「アイリッシュ・クロッシェ・レース」が有名になったのは
アイルランドの「ジャガイモ飢饉」が切っ掛けです。

テキスタイル誕生には、宗教や政治などの
歴史的背景や逸話があります。
素材に興味のわいた方は『テキスタイル用語辞典』も
ぜひご覧ください。
読み物としても面白い解説が好評です。

http://www.textile-tree.com/cube/html/ 

 

文:編集部Kazumi

旧式の織機をカスタマイズして織り上げた、超マニアックなストール『ITO』!

投稿日:2014/ 01/ 28  作成者:Textile-Tree 編集長 成田典子

愛媛県今治市の「工房織座」のストールブランド『ITO(イト)』は、
テキスタイル好きなら、そのこだわりを
いつまでも聞いていたくなるような
独創的な織りで魅了します。
巻き方でテキスタイル変化やストールの様々な形が楽しめる、
ストールならではの魅力な織りなのです。

代表の武田正利さんは織り職人でもあり、
廃棄同様の旧式織機を全国から集め、
部品も自ら作りながら修理して改良を重ね
独自の織機にカスタマイズ。
昔の織機だからこそ織り上げられる
独創的な織りや風合いのストールを作り上げました。

工房織座」ではグッドデザイン賞、アジアデザイン賞など
世界の様々な賞を受賞している独創的な織りが
生み出されています!

上の写真は「昼夜織り(ちゅうやおり)」というもので、
裏表が反対の配色の柄が現われるもの。
ブルー面の裏側はピンクなのでリバーシブルで楽しめます。
しかもブルーからピンクのグラデーションになっているのが凄い!

こちらは麻とシルクの昼夜織り。
前述の綿と麻の昼夜織りよりも光沢があり
玉虫効果がはっきり出ています。
素材が変わると見え方も随分違います。

一見、モノトーンの普通のストールに見えますが
右端は「たてよこよろけもじり織り」という織り方。
「よろけ」というひょうたんのような波柄が現われる
「もじり織り」のストールで、
下のブルーのストールと同じ織りです。
「もじり織り」は透け感がありますが
タテヨコの糸がしっかり絡まっているので
糸がずれることなく丈夫な織りです。

上のボーダー柄は、よく見ると左右の幅が違います。
普通このようなボーダーはまず作ることはできません。
「傾斜もじり織り」という独創的な織りで
傾斜を変えた独自に開発した筬を使用することで
イレギュラーな幅のボーダーとなるそうです。

ボーダーの左のストールは「筒織り」にしたもので
輪になっているので、すっぽり被ることができます。
色を変え四重につながっているものもあります。

上のストールは何枚ものストールを並べているように見えますが
色違いの4枚のストールが一辺でつながっている
「四重平織り」という不思議な織りです。
4枚の布が重なったように織る「四重織り」の一種で
巻き方により様々な色を楽しめます。

(JFW-IFF「大日本市」にて)

「TLF第88回東京レザーフェア」2014春夏コレクションVOL.1

投稿日:2013/ 06/ 25  作成者:Textile-Tree 編集長 成田典子


・・・・「TFL第88回東京レザーフェア」6月20日・21日開催・・・・

TLF東京レザーフェア」は、靴やバッグなどの
素材(革や雑材)・副資材(パーツ)の展示会です。
皮革販売業者、タンナー(なめし革業者)、
副資材業者(ヒール、靴の底材、バッグの口金などのパーツ)、
加工機械の部品などを製造販売する業者が参加する
かなり専門性の高い見本市です。


・・・・レザー、靴やバッグのパーツなどの
資材トレンドも盛り込んだ「出展者ガイド」・・・・


・・・・「出展者ガイド」には2014春夏の素材トレンドのポイントも!・・・・

本来は靴やバッグなどのメーカーや問屋向けの
見本市として開催されてきましたが
小売店やアパレル、クラフト業界など
幅広い業種のOEM生産として販路を広げるため、
また学生や一般の方にも浅草の皮革産業をアピールし
業界への関心を高め、人材を確保しようという狙いもあり
現在は一般の方も無料で入場可能な見本市となっています。


・・・・「革コン」のデザイン応募のポスター・・・・


・・・・一般の方の応募も可能な革のデザインコンテスト「革コン」。応募した
デザイン画に来場者が投票します・・・・


・・・・各社「いち押し」で提案された革を人気投票するコンテスト・・・・


・・・・投票したい革には色の着いたボールが入れられます・・・・


・・・・絞りの技術を入れた革・・・・


・・・・和歌山県の皮革産地も参加。和歌山県の皮革産業は県内で最も古い
地場産業で、その源流は慶長年間といいます・・・・


・・・・和歌山の皮革産地と文化服装学院がコラボしたシューズ・・・・


・・・・(社)日本タンナーズ協会のブース・・・・



・・・・様々な種類のなめし(タン)の技術を展示・・・・・


・・・・なめし工程や革の種類を分かりやすく解説した冊子を制作。
とてもいい資料になります・・・・

通常の展示会や見本市は
一般の方の入場ができない業界向けのものが多く、
中には入場料も必要な場合もあります。
「東京レザーフェア」の主催は協同組合資材連ですが、
東京都が共催、経済産業省・台東区・
日本皮革産業連合会が後援、
リネアペッレ(イタリアで開催される世界最大の国際革見本市)が
協賛となるなど、日本の皮革産業活性化のために
官民一体となって頑張っている様子が伺えます。


・・・・リネアペッレの2014春夏トレンドセミナー・・・・


・・・・リネアペッレ・セレクション(2014春夏トレンドブース)・・・・



・・・・トレンドテーマに沿った革や付属を提案・・・・

会場では一般の方も参加しやすい工夫を凝らした
イベントやコンテストなどを開催したり
トレンドセミナーやトレンドブックの制作、革の知識の冊子など
無料の展示会としては、提供する革情報やトレンド情報がとても丁寧。
しかし、このことは皮革業界以外の方にはあまり知られていないようです。


・・・・「東京レザーフェア」が提案するトレンド情報の「トレンドラボ」・・・・


・・・・2014春夏トレンドで注目のグリーンとGOLDの組み合わせ・・・・


・・・・「東京レザーフェア」が発信するトレンド冊子
「TREND RABORATORY」・・・・


・・・・全身レザーでコーディネートしたモデルが館内を
ウォーキング・・・・


・・・・革の仕上の実演と体験コーナーなども・・・・

毎回浅草の都立産業貿易センター台東館で行われる
「東京レザーフェア」は、手づくり的な暖かみがありますが
演出性や業界外への告知がまだ弱い面もあります。
皮革業界活性化のためには、「東京レザーフェア」そのものを
どうアピールして行くかが今後の課題のようです。
ぜひ学生さんや、クラフト好きの方にも知っていただき
革に親しみ、これからの革のクリエーションを
リードしていって欲しいものです。

近江の麻の老舗「林与」の「麻布看板」の話し!

投稿日:2013/ 05/ 10  作成者:Textile-Tree 編集長 成田典子

Premium Textile Japan(PTJ)』2014春夏展に出展した
近江の麻の老舗(株)林与の「看板」についてお話しします。

 明治30年創業の林与は、展示会ではいつもブースの正面に
「林与」の伝統のロゴをパッチワークで縫い取った
麻布の看板を掲げます。
お手製のこの看板は、林与のトレードマークとなっていますが、
実は昨年10月の『インターテキスタイル上海』の時に
紛失してしまったようなのです。


・・・・PTJでは新しい「林与看板」が掲げられました・・・・

 林社長は今回のPTJの展示会に間に合わせようと、
忙しい合間を縫って一人で作業を続け
展示会初日の5月8日に、会場の東京国際フォーラムに到着してから
「林与」のマークに縫い取った部分をカットする
最後の作業を行ったといいます。

 この「林与看板」制作のことは、
林社長の人気ブログ「リネン日記」で知ったので
どんな風に仕上がっているのかを見るのも
楽しみのひとつでした。


・・・・表地と裏地を重ねて縫い、最後にロゴの部分を切り取ります・・・・

初代の「林与看板」は、味わいのあるパッチワークでしたが
今回のものは、表地と裏地を重ねて仮縫いし、次にロゴの形を縫い、
最後にロゴの部分を切り取ります
裏地は倉庫に眠っていた40年前の紺の後染めリネンを、
表地は定番の生成りのソフトリネンを使用したといいます。

40年前のリネンは、フィブリル化(摩擦で毛羽立ちささくれる現象)し、
ふっくらといい感じになっています。
しかもシワになりにくいという特徴があります。
こういう麻布は、作ろうと思っても
なかなか作れるものではなく、
昔の糸や織りの優れた技術、年月を経た麻独特のもののようです。


・・・紺のリネンは40年前のもの。フィブリル化していい感じが出ています・・・・・


・・・・昨年のPTJの林与のブースに掲げられていた初代「林与看板」。
このときは『テキスタイル用語辞典』を販売させて頂きました・・・・


・・・・初代「林与看板」は、正方形のパッチワークで作った力作です・・・・

林社長は、昔のリネンを研究しながら
どうしたら現代にこのようないいものを作ることができるか…
しかも今のビジネスとして成り立つものを試行錯誤しています。
新しい試みも着々と進んでいます。
その話しは次回お伝えします。

2014S/S 『T・N JAPAN東京展』Vol.3宮下織物

投稿日:2013/ 05/ 03  作成者:Textile-Tree 編集長 成田典子

『テキスタイル ネットワーク ジャパン(T・N JAPAN)東京』は
付加価値の高いもの作りをしている
全国から選りすぐったテキスタイルメーカーで
構成されている合同展です。
2014S/Sテーマは「触感を考える」。


・・・・細番手・高密度・ジャカードを中心とした先染織物を
得意とする宮下織物(株)・・・・

山梨県富士吉田の宮下織物(株)は、
細番手・高密度・ジャカードを中心とした先染織物が特徴で、
シルクブロケード、サテンやタフタのウエディングドレス生地など、
フォーマル分野を得意としています。
特に「濡れ巻き整経」という
山梨県郡内織物産地独特のシルクのたて糸整経技術を用いた
シルクサテンのドレス地を製造する
日本で唯一の織物メーカーとしても知られています。
プラチナのような輝きを持つ、シルクサテンは、本当に見事なものです。

※2013−2014『T・N JYAPAN 東京展』の宮下織物も参考にご覧ください。
http://www.textile-tree.com/tex/?p=3787


・・・・濡れ巻き整経のシルクサテンにフォークニードルを施した新作・・・・

今回の展示会でテキスタイルデザイナーの渡辺絵美さんが
イチオシで見せてくれたのは、糸を引っ掻き出したような
ユニークなテキスチャーのシルクサテンでした。
「フォークニードル」というニードリングの一種で、
釣り針のようなものに生地を引っかけて表面を傷つけて
糸を引っ掻き出したものです。

なんと驚いたのは、このシルクサテンは
「濡れ巻き整経」のシルクだというのです。
「究極のシルクサテンを、どうしてこんなもったいないことを!」
実は…細く緻密な濡れ巻き整経のシルクは、
織りこぶができてしまうこともあり、
これをB級反にしたくないという、
逆転の発想で考えたテクニックだというのです。
若いテキスタイルデザイナーならではの
大胆な発想に舌を巻きました。


・・・手でぎゅっと掴んだようなシワ感を出した
メタフィスと共同開発した『クーナ』の技術を応用したテキスタイル。
よこ糸にポリウレタン糸を使い、糸の性質で
布の伸縮性と自然な凹凸感をあらわしています・・・・


・・・・海外の方にはメタリック素材の人気が高かったそうです・・・・

宮下織物(株)が得意とするのが先染めのカラーフォーマル素材です。
ポリエステル%100のシャンブレータフタ(玉虫調)は、
なんと40色の在庫を持っているとのこと。
小ロットからも対応でき、価格もこなれているので
海外からの需要も多い、人気の定番アイテムです。


・・・・40色の在庫を持っている、カラーフォーマルとして
人気の高いシャンブレータフタ・・・・


・・・・40色の在庫を持っているポリエステルサテン・・・・

宮下織物(株)は、伝統的なもの作りをきちんと継続しつつ
アット驚くような新しい素材開発にも積極的に取り組みます。
最上級のもの作りがきちんとできて、
かつ実用としての、使いやすい定番素材もきちんと提案できています。
地に足のついたオリジナリティのある柔軟なもの作りが、
実力のあるメーカーの姿勢なのかも知れません。