素材の話

夏涼しく、冬暖かい、綿紗(ガーゼ)の不思議。

先日、晒しの話しをしましたが
「和晒し(わざらし)」という天然晒し製法にこだわり
『京和晒綿紗(きょうわざらしめんしゃ)』というブランドをもつ
京都の「大東寝具工業株式会社」をご紹介します。

大正14年に、京都の壬生で布団製造販売メーカーとして創業。
現在はインテリアも含め
永年にわたり、繊維の中心地である京都の室町筋を通じて
「快眠とくつろぎ」をコンセプトにしたものづくりをしています。
環境や文化への取り組みも積極的で
大東利幸社長の人柄そのままのような、とても暖かな会社です。
「綿紗(めんしゃ)」とはガーゼの和名ですが
紗のような粗く透ける綿素材を総称する言葉でもあるようです。
「綿紗」という言葉の響きには、
どこか、古(いにしえ)から伝わってきた「布の気品や力」を感じます。
『京和晒綿紗』と名付けた由来にも
そういう気持ちが込められているのかもしれません。

実は、「和晒し」と「綿紗」の出会いには
大東社長のお子様への大きな愛情物語があるのです。
ひどいアトピーで苦しんでいたお子様のために
「肌に優しく安全な素材はないものか…」と
研究し開発して生まれたのがこの『京和晒綿紗』です。

今や希少になっている、昔ながらの「和晒し」は
ホルムアルデヒドなどの人体に影響を与える物質を含まず
繊維の不純物もきれいに取り除き
「残留物ゼロ」という、安心製法なのです。
しかも、4日間もゆっくり時間をかけて行うため
繊維にストレスがかからず
「コットンがもつ本来の力」を最大限に引き出してくれます。
つまり、綿紗(ガーゼ)のもつ「優れた吸汗速乾性」「非常にソフトな柔軟性」を
より際立たせてくれるのです。

ところで「綿紗(ガーゼ)」ですが
衣類や寝具としては「夏素材」というイメージが強いのですが
実は「暖かい素材」でもあることをご存知でしょうか。
1枚では薄く透けていますが、これを何枚も重ねることで
「空気層」ができて
夏は、「通気性・吸汗速乾性を高め涼しい」
冬は、「適度な保温性をもち暖かい」という特徴があり
まさにオールシーズンの素材なのです。

しかも洗濯するほど、使い込むほど表面が滑らかになり
風合いが良くなり、肌に馴染んでくるという
まさにミラクル素材。

・・・5重ガーゼの断面・・・

ガーゼを重ねた素材にはダブルガーゼのように
多重織りであらわしたものもありますが
『京和晒綿紗』は空気層の効果をいっそう高めるために
1枚ずつのガーゼを5枚重ねて1枚の生地として縫製するという
手法が取られています。
まさに「縫製屋さん泣かせ」の高度な技術です。
まるでミルフィールのような空気層が
ほどよい通気性と保温性を生み出し
絶妙な温度調節をするのだといいます。

『京和晒綿紗』は医療用寝具としても使われていますが
昨年よりこの素材を使用した
その素』という「晒しシャツ」のブランドが立ち上がりました。
ほんとうに気持ちのいい肌触りです。
「とにかく、洗って洗って、ふわふわの空気層を実感してください」と
メッセージをいただきました。
「長く着るほどに愛着のわく1着」になりそうです。

【Textile-Tree/成田典子】