素材の話

カトリーヌ・ド・メディシスの「メディチ・レース」の秘密Vol.-2

レースセンター原宿が主催する
アンティークレース鑑定家、ダイアン・クライスさんの
レースレクチャーがありました。
今回のテーマは「カトリーヌ・ド・メディシスのレース」。
世界で5枚といわれるカトリーヌ・ド・メディシスのレースの
1枚を所有しているダイアンさんから見せていただいたレースには
驚くような秘密が隠されていました。


・・・・カトリーヌ・ド・メディシスが使用したベッドリネンのレティセラ・レース・・・・

イタリアの名門メディチ家からフランス王の王妃となった
カトリーヌ・ド・メディシスにとって
「王の子孫」を作ることは、命がけの大役です。
カトリーヌは占いにも熱心で、ノストラダムスなどの占星術師を
重用し、様々なアドバイスを得ていたといいます。
王族にとって“後継者”を生むことは最も重要な仕事。
“寝室”は子孫を得るための重用な場所です。
寝室は夫婦だけのプライベートルームではなく、
たくさんの人々によって“子づくり”のための協業が行われます。

ベッドカバーなどの装飾品にも“子孫繁栄” を意味する
様々なシンボルが盛り込まれています。
ダイアンさんが、カトリーヌがベッドルームで用いていた
レースの装飾模様をリーディングしてくれました。


・・・・大陽のようなモチーフのレティセラ。回りは花のアップリケ・・・・

装飾カバーとして使われていたレースは、
カットワーク、ドロンワーク、刺繍を併用した「レティセラ」というものです。
中央に3つの大きな「メダリオン」があり、
その回りには「ロゼット」が配置。
メダリオンの回りには花などがアップリケされています。

メダリオンとは「大型メダル」のことで、
大陽、魔除け、宇宙のシンボライズなど様々な解釈があります。
カトリーヌのレースには、大陽とはっきりわかるデザインもあります。
「ロゼット」は中央から放射状に広がる円形模様で、菊花紋にも似ています。
元来はバラの花から由来し、一種の大陽マークともいわれています。
大陽は、“不滅”のシンボルです。


・・・・正方形の中にロゼット模様があり、回りは花のアップリケ・・・・

以前、ダイアンさんのレクチャーで
サークル(円)とクロス(十字)を組み合わせ、
回りをスクエア(四角)で囲んだ「レティセラ」の模様について
伺ったことがあります。
サークルは「天国」を意味するものでもあり、
クロスは「天と地の中心」で生命をあらわします。
そしてスクエアは「地球」。
正方形は下記の4つの重要なシンボルだといいます。
(1)4つの元素「土・水・空・火」
(2)4つの季節「春・夏・秋・冬」
(3)4つの方向「東・西・南・北」
(4)楽園の4つの小川(エデンの園にある東西南北にクロスになった川)

興味深いのはメディチ・レースに縫い込まれた
アップリケされた花や小枝や果物です。
これらのモチーフには、
結婚、母、多産、妊娠、陣痛などを意味するキーワードが読み取れます。
「カーネーション」は、“結婚”の重要なシンボルであり
すべての人々の“母”の象徴。
“マリア”をあらわすものでもあり、キリストの受難を象徴します。


・・・・回りの花のアップリケのはカーネーションのよう・・・・

「アイリス」は、キリストとマリアの“威厳” の象徴。 “忍耐”を意味します。
「シクラメン」はイタリアやフランスでは、
陣痛が速やかになるように身につけるといいます。
「葡萄の房」は、キリストのシンボルであり、多産のシンボルでもあります。
ベッドリネンでは重用なモチーフです。
「スズラン」は、キリストと花嫁の愛の象徴。結婚の象徴的な価値を意味します。


・・・・左上に見えるのは葡萄のアップリケ・・・・

そして「ドングリ」には、メディチ家独特の意味が隠されているようです。
ルネサンス期に銀行家として君臨したメディチ家の
「金を溶かす壷」であり、「たくさんの成長」を意味するといいます。
カトリーヌは「フランスの王位を救わなければならない」という
使命感を感じていました。
ドングリは強健な後継者の象徴であり“王冠”をあらわしているのです。


・・・・回りにはドングリのアップリケ・・・・

カトリーヌは、結婚して10年間子宝には恵まれませんでした。
妊娠するために、アーティーチョークや鶏の砂肝などの
特別な料理を食べたり、はたまた騾馬の尿を飲むなど
あらゆる手段を用いたとされます。
その後カトリーヌは男子を出産し、合計9人の子供を授かっています。

カトリーヌがイタリアからもたらした
「ブラトー・レース」や「レティセラ」などのレースは
ベッドリネンやテーブルセンターをはじめ
ファッションでもヨーロッパに一大ブームを巻き起こしました。
特に「レティセラ・レース」と「プント・イン・アリア」を組み合わせた
「ラフ」という顔を覆うような扇状の襟は“オーラ”のシンボルであり、
16世紀の王侯貴族やブルジョワジーのステイタスとなりました。
レース襟にはワイヤーが入れられ、糊付けされ、高さや大きさが競われました。
鯨の骨を入れたコルセット、上品なランジェリー
軽い香りの香水をフランスにもたらしたのもカトリーヌだといいます。


・・・・大粒の宝石やパールを縫い取った衣装を身に着けた
マリー・ド・メディシス
(1575〜1642)・・・・

その後メディチ家からは、カトリーヌの遠縁にあたる
マリー・ド・メディシスアンリ4世に嫁ぎます。
メディチ家の莫大な財産を目当にした政略結婚ともいわれていますが、
マリーは持参金を宝石で着飾った衣装につぎ込み
イタリアの贅沢なファッションをフランスにもたらします

この時代の宝石類は、アクセサリーにするのではなく
衣装そのものに、金やパール、宝石類を
惜しげなくふんだんにちりばめるのが特徴です。
16世紀後半には、まるで宝石で織った衣装のごとくの
宝石ファッションが最盛期を迎えます。

2012年5月にスイスのオークションで、
アンリ4世がマリー・ド・メディシスにプレゼントし、戴冠式で身に着けた
ボーサンシー(Beau Sancy)」と呼ばれる35カラットのダイヤモンドが
7億700万円で落札されました。
このダイヤモンドは17世紀にはオランダに渡り、その後イングランド、
そしてプロイセン王家へと受け継がれてきたものです。
一体どなたが買われたのでしょう…
レースや宝石…ヨーロッパの歴史的な芸術品にロマンが広がります。